目次
認知機能のその先を調べたら、意思決定はもっと複雑だった
🔬研究テーマ
私は何を基準に意思決定しているのか。
認知機能日記から始まった自己理解をもう一段深掘りし、「価値観」という視点から、自分の意思決定の仕組みを考えてみる。
❓背景・疑問
第一章では、MBTIの認知機能が実際にどのように自分の中で働いているか気になり、認知機能日記を13件つけた。

そこで気がついたのは、
私は「感情がない」のではなく、感情を感じたうえで最終判断に採用しないことがある
ということだった。
では、感情を採用しないとき、私は代わりに何を採用しているのだろう。
目的、効率、自分の気持ち、相手への配慮・・・
そこで第二章では、認知機能そのものから少し離れて、**「何を判断基準として採用しているのか」**を調べることにした。
すると、さらに疑問が生まれた。
そもそも、なぜ私はその基準を大切だと思うのだろう?
たとえば、同じように「相手の気持ちを考えて行動する」人が二人いたとしても、その理由が同じとは限らない。
相手を助けたいのかもしれない。
関係を壊したくないのかもしれない。
公平でありたいのかもしれない。
つまり、表面的に同じ判断や行動をしていても、その奥にある「大切にしているもの」は違う可能性がある。
ここでようやく、
「価値観って、そもそも何なんだ?」という疑問にたどり着いた。
💡仮説
自分が何を判断基準として採用するか、その背景には価値観があるのではないか。
もし「自分が何を大切にしているのか」を理解できれば、認知機能だけを見ていたときよりも、自分の意思決定を深く理解できるかもしれない。
そこで、価値観について調べてみることにした。
🌏世界から得たヒント
価値観とは何なのか
調べていて出会ったのが、社会心理学者シャローム・シュワルツの基本的価値理論だった。
シュワルツは価値について、単なる「好き嫌い」ではなく、人生のさまざまな場面を超えて、選択や評価の基準となるものとして整理している。
価値には6つの特徴がある。
① 感情と結びつく
大切な価値が守られたり脅かされたりすると感情が動く。
② 目標になる
「こうありたい」という方向へ人を動機づける。
③ 状況を超える
仕事だけ、友人関係だけではなく、さまざまな状況で働く。
④ 判断基準になる
何を選ぶか、何を良いと評価するかの基準になる。
⑤ 優先順位がある
人は複数の価値を持っていて、その相対的重要性が違う。
⑥ 複数の価値が競合する
意思決定では、関係する価値同士を比較しながら行動が方向づけられる。
つまり価値観とは、
感情と結びついた「こうありたい」という状況横断的な目標で、判断基準として働き、人それぞれ優先順位があり、意思決定では複数の価値が競合するもの
と考えると分かりやすそうだ。
特に気になったのは、
価値は「選択や評価の基準になる」というところだった。
まさに今、私が探しているものとつながっている。
価値観には「地図」があった
シュワルツの理論では、価値を19種類に細分化して考えることができる。

しかし、私が面白いと思ったのは19種類あることそのものではなかった。
この19価値は、ただの価値観リストではない。
円になっている。
それぞれの価値が目指す「動機」の相性によって配置されている
からだった。
近い価値ほど、同じ行動で一緒に追求しやすい。
離れた価値ほど、同じ行動で同時に追求しにくい。
しかも19個が完全に独立しているわけではない。
価値の動機は少しずつ変化していく連続体で、19個の境界は研究上設けられた区切りである。
つまり、この円環は、
人間が意思決定するときに起こる「動機同士の相性マップ」
として見ることができる。
「どの価値を持っているか」だけではなく、
複数の価値の中で、今回はどれを優先するのか。
そこまで含めて価値観だった。
4つ・10個・19個は、同じ地図を違う倍率で見ている
さらに面白いことが分かった。
シュワルツの価値理論には、
4つの上位価値
10の基本価値
19のより細分化された価値
がある。
最初は、「結局、人間の価値は何個なんだ?」と思った。
でもそういう話ではなかった。
価値の本体は、あくまで円環状につながった動機の連続体。
それをどの解像度で見るかが違う。
私は、
4価値=超広域地図
10価値=広域地図
19価値=詳細地図
と考えると理解しやすかった。
4つの上位価値では、
変化への開放性 ↔ 保守
自己高揚 ↔ 自己超越
という、人間の価値にある大きな2つの対立を見ることができる。
19価値まで拡大すると、「変化への開放性」の中でも、自己決定なのか、刺激なのか。
「自己超越」の中でも、親切なのか、普遍主義なのか。
というところまで細かく見ることができる。
🧠考察
価値観がわかれば、意思決定がわかる?
ここまで調べたところで、
「なるほど。自分の意思決定の根っこにあるのは価値観なのか」
……と思いかけた。
でも、実際の意思決定を考えてみると、どうもそんなに単純ではなかった。
たとえば、私はあることを大切にしていたとしても、
今日は疲れている。
締め切りが迫っている。
相手から強く期待されている。
時間がない。
お金がない。
となれば、いつもと違う判断をする可能性がある。
さらに、同じ状況でも、性格によって反応しやすさは違うだろう。
つまり、
価値観もまた、意思決定を構成する複数の要因の一つなのではないか。
ここで、これまでの研究を一度まとめてみた。
意思決定の流れ(仮説)

今のところ、私は意思決定をこんな流れで考えている。
まず、比較的安定している背景要因として、
性格・気質
「どう反応・行動しやすいか」
価値観
「何を大切にしたいか」
がある。
一方、その時々で変化しやすいものとして、
目的・目標
「今回は何を実現したいのか」
感情・身体状態
「今どう感じているのか」
社会規範・他者の期待
「周囲から何を求められているのか」
状況・制約・環境
「現実には何が可能なのか」
などがある。
これら複数の要因が流れ込み、
今回は何を優先する?
という「その場の判断基準」ができる。
そこから、
意思決定 → 行動 → 経験・結果
へ進む。
そして、その経験が次の判断や、長期的には価値観や目標などにも影響していく可能性がある。
この図は既存の心理学理論をそのまま図示したものではなく、心理学の知見を参考にしながら、今回の研究を通して私が意思決定を理解するために整理した作業仮説である。
認知機能は、意思決定のほんの一部だった
この図を作ってみて、一番大きかったのがこれだった。
第一章では、認知機能から自分の意思決定を理解しようとしていた。
「これはTeなのか?」
「これはFiなのか?」
「Feならどう判断する?」
そんなふうに考えていた。
認知機能は、自分の思考や判断の癖を観察するきっかけとして、とても面白かった。
でも今振り返ると、認知機能だけで意思決定全体を説明しようとしていた部分があったのかもしれない。
たとえば「相手の気持ちを考える」という判断をFeとして捉えたとしても、
なぜ相手の気持ちを考えることを大切だと思ったのか?
は、それだけではわからない。
そこには価値観もある。
性格もある。
その日の目的もある。
感情もある。
相手との関係や状況もある。
認知機能は、人間の意思決定全体を説明するものというより、判断の特徴を考えるための一つのレンズくらいに置いておくほうが、今の私にはしっくりくる。
自己理解にも「深掘りできるもの」と「その都度見るもの」がある性格と価値観も別物だった
そして、意思決定マップを作ったことで、もう一つ気づいた。
すべての要因を完全に理解しようとする必要はないのかもしれない。
性格・気質や価値観は、比較的状況を超えて安定している。
だから、
性格・気質はBig Five。
価値観はSchwartz。
といった、研究の蓄積がある心理学の枠組みを借りながら、自分についてある程度深く理解しておくことができる。
一方で、
今日の目的。
今の感情。
相手からの期待。
時間やお金などの制約。
これらは毎回変わる。
だったら、こちらは完全に理解しようとするより、意思決定のたびに観測すればいい。
つまり自己理解とは、
自分を完全に理解して、未来の判断をすべて予測できるようになることではない。
比較的変わりにくい自分について解像度を上げながら、その時々で変わる要因を観察し、
「今回は、なぜこれを選んだ?」
を少しずつ理解できるようになることなのかもしれない。
人間の意思決定が状況によって変わるのは、矛盾ではない。
入力される条件が毎回違うのだから、同じ人でも違う答えが出て当然なのだ。
✅現時点の結論
今回、価値観について調べ始めたことで、自分の意思決定を説明する新しい答えが見つかると思っていた。
でも実際に見つかったのは、もっと複雑なものだった。
意思決定は、性格・気質や価値観といった比較的安定した要因と、目的・感情・他者・状況などその時々で変化する要因が合流し、「今回は何を優先するか」を決めた結果として生まれているのではないか。
価値観は、その中でも、
「私は何を大切にしたいのか」
を理解するための重要な手がかりになる。
でも、価値観だけでも人間は説明できない。
認知機能だけでも説明できない。
一つの理論に人間を押し込めるのではなく、それぞれの理論が得意なところを借りながら、自分という一人の人間を少しずつ理解していく。
今のところ、それが私の自己研究には一番合っていそうだ。
🔜次回研究
意思決定の全体像について、現時点での地図ができた。
そして今回、その中の**「価値観」**についてSchwartzという詳細な地図を手に入れた。
次は再び、自分を被験体に戻す。
私は19の価値のうち、何を重視しているのか。
そして実際の意思決定日記を見ながら、
「この判断では、どの価値が動いていた?」
「価値同士の競合はあった?」
「価値以外に、どんな要因が影響した?」
「最終的に私は何を判断基準として採用した?」
を観察していきたい。
認知機能から始まった自己研究は、思っていたよりずっと大きな研究になってきた。
人は、何をもとに「こうしよう」と決めるのか。
第二章では、しばらくこの問いを追いかけてみようと思う。🔬🌾
